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岡山地方裁判所 昭和36年(行)2号 判決 1967年3月29日

主文

被告が原告に対して、昭和三五年八月八日付をもつてなした、株式会社横溝商店に対する昭和三一年度ならびに昭和三三年度法人事業税および法人県民税につき原告を第二次納税義務者としてその納付を告知した処分中昭和三一年度および昭和三三年度法人事業税に関する部分を取り消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は六分し、その一を原告のその余を被告の各負担とする。

事実

第一、申立

原告

原告が被告に対して、昭和三五年八月八日付をもつてなした、株式会社横溝商店に対する昭和三一年度ならびに昭和三三年度法人事業税および法人県民税につき原告を第二次納税義務者としてその納付を告知した処分(以下「本件納付処分」という)は、これを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二、被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二、事実上の主張

一、当事者間に争いのない事実

(一)  訴外株式会社横溝商店(代表取締役原告。以下「横溝商店」という。)は、荒物・雑貨・家庭用品等の販売を目的として設立されたが、昭和三五年五月二五日解散し、目下清算手続中である。

(二)  被告は、昭和三五年八月八日原告に対して、横溝商店には

昭和三一年度法人事業税    二一四、三二〇円

法人県民税     四三、九一〇円

昭和三三年度法人事業税    一六八、四六〇円

法人県民税     二九、四六〇円

および過少申告加算金、重加算金につき滞納があり、そして原告には地方税法第一一条の六により右租税債務の第二次納税義務があるとして、その納付を告知し、さらに原告所有の別紙第三目録記載の土地および倉庫(以下「本件土地」「本件倉庫」という)を差押えた。

(三)  そこで、原告は昭和三五年九月七日被告に対し異議申立をしたところ、被告は同年一一月七日加算金・重加算金・延滞加算金・督促手数料等の賦課処分を取消したが、前記税額部分についてはこれを棄却する旨決定し、その頃原告に通知した。

二、被告の主張

(一)  横溝商店は、昭和三一年度および昭和三三年度において別紙第一目録記載のような事業所得および法人税の課税処分があつたので、被告はこれにもとづいて、昭和三五年六月二八日横溝商店に対し、

昭和三一年度分法人事業税    二八三、三五〇円

法人県民税(法人税割)  五六、〇一〇円

過少申告加算金    二、二九〇円

重加算金      五九、四七〇円

昭和三一年度分法人事業税    一六八、四六〇円

法人県民税(法人税割)  二九、四六〇円

過少申告加算金    四、四六〇円

重加算金      三三、六二〇円

とする旨の更正決定をなし、同月二九日を納付期限と指定して納付告知処分(但し、昭和三一年度の法人事業税については六九、〇三〇円がまた法人県民税については一二、一〇〇円が各納付済であるので、この分を控除した金額)をしたところ、横溝商店は右納付期限が経過するも、これを納付せず滞納した。(右法人事業税および法人県民税の各金額の算定根拠は、別紙第一目録記載のとおり。)

(二)  そして、次のような事情があるから、原告には、横溝商店の右法人事業税および法人県民税債務につき、地方税法第一一条の六第二号所定の第二次納税義務がある。

1、横溝商店は、その所有財産の大部分を訴外横溝物産株式会社に譲渡した後に解散したゝめ、前記滞納のあつたときには無資産であつて、これから徴収することは不可能である。

2、横溝商店の発行済株式の総金額は八〇〇、〇〇〇円であるが、その株主およびこれが有する株式金額は別紙第二目録記載

のとおりであり、そのうち原告とその妻静子および原告の母与志の三名が有する株式金額は合計四〇〇、〇〇〇円であるので、同商店は法人税法第七条の二第一項第一号所定の同族会社に該当し、原告はその判定の基礎となつた株主に該当する。

3、原告は、本件土地および本件倉庫を所有し、これを横溝商店に対してその設立当初から引きつゞき貸与して来た。そして、同商店は、これを事業の遂行上欠くことのできない重要な営業財産として、使用して来た。

すなわち、横溝商店の営業する荒物・雑貨・家庭用品の卸売小売業においては、その事業遂行のためには、商品を保管する倉庫が必要不可欠なのである。そして、同商店は、倉敷市戒町五〇八番地所在の本店と店舗二ケ所のほかに、倉庫七ケ所を使用しているのである。そして、そのうちでも本件倉庫は、営業の主体をなす本店から至近距離内にあるうえ、収容力も大きく、また賃貸料も安かつた。そのため、同商店は、その全保管商品のうち約半数を、本件倉庫に保管していた。そして、このような経済的好条件をそなえている本件倉庫に代りうべき倉庫が他に見付かるとは思われないし、さらには、営業収益のあまりよくなかつた横溝商店においては、他にこれに代るべき倉庫を新規に調達することなど全く不可能であつた。

4、本件倉庫についての適正賃料は、極く控え目に算定しても月額一二、〇〇五円(岡山県内においては、坪当り月額三五〇円から一、〇〇〇円位が妥当な価額とされているところ、この三五〇円を延坪数三四・三坪に乗じた数値。)となる。

しかるに、原告は、これを昭和三四年三月三一日までは無償で、同年四月一日以降解散までは月額一、〇〇〇円の賃料でもつて、横溝商店に貸していた。したがつて、この適正賃料額と横溝商店が実際に出捐した額との差額は、本件倉庫より生じた所得であつて、これを同商店は取得したのである。

三、原告の主張

被告の主張事実のうち、(一)については事業所得に関する部分を否認する。当該年度には、横溝商店には事業収入はなかつた。

(二)の1のうち、同商店が無資産である事実、同2の全事実、同3のうち、原告が本件土地および本件倉庫を所有し、これを横溝商店に対しその設立当初から引きつゞき貸与して来た事実は認め、同商店がこれを事業遂行上欠くことのできない重要な財産として使用して来た、との事実は否認する。横溝商店の使用していた営業所等の使用状況は別紙第四目録記載のとおりであつて、この記載の各物件のうち先順位のものほど重要であつた。同4の事実のうち、本件倉庫の賃料額を否認する。賃料額は、昭和二六年三月より昭和二九年三月までは月額五、〇〇〇円を徴収し、昭和二九年四月より昭和三四年二月までは横溝商店の営業不振のため賃料の徴収はしておらず、また昭和三四年三月より昭和三五年五月までは月額二、〇〇〇円を徴収していた。

第三、立証(省略)

理由

一、法人事業税について。

被告は、横溝商店が昭和三一年度には二、四四四、六〇〇円昭和三三年度には一、六五三、九〇〇円の各事業所得を得た旨主張する。しかし、同商店に被告主張金額の所得が生じたことを首肯するに足る事実については何ら主張立証されておらないから、この所得の存在を認めることはできない。そうすると、本件納付告知処分中法人事業税に関する部分については、その余の点を判断するまでもなく、違法というべく取消しを免れない。(なお、証人浅野嘉男の証言と当裁判所の倉敷税務署長に対する調査嘱託の結果によれば、被告は、同税務署長の横溝商店に対する前記年度における法人税の課税標準たる所得額を基礎として、法人事業税の課税標準たる所得額を確定した事実が認められるが、しかし、この法人税の課税標準たる所得額が正当であると認むるに足る資料もないから、右算定方法をもつて確定した所得額が正当であると認めることはできないことは、地方税法第七二条の規定から当然である。)

二、法人県民税(法人税割について)。

前記当事者間に争いない事実および証人浅倉嘉男の証言、原告本人尋問の結果、当裁判所の倉敷税務署長に対する調査嘱託の結果ならびに本件口頭弁論の全趣旨により認められる事実は、次のとおりである。

(一)  横溝商店は、昭和三一年度ならびに昭和三三年度において各々一、〇三七、三五〇円ならびに五四五、七八〇円の法人税の賦課処分を受けた。そこで、被告は昭和三五年六月二八日被告に対して、右金額に岡山県条例第三七条所定の税率を乗じて得た金額を法人県民税(法人税割)の課税額に定め、そのうちからすでに納付済の金額を控除した残額である、昭和三一年度分四三、九一〇円ならびに昭和三三年度分二九、四六〇円について、納付期限を同月二九日に指定して納入告知をしたが、同商店は右期限になつてもこれを納入しないで滞納した。(右税額の算定経過は、別紙第一目録記載のとおり。)

(二)  そして、横溝商店は、その保有財産の大部分を昭和三五年五月二三日設立の横溝物産株式会社に譲渡した後同月二五日に解散したので、右滞納が生じたときにはすでに無資産であつて、右滞納税金を納付する能力はなかつた。

(三)  横溝商店の発行済株式総金額は八〇〇、〇〇〇円であるが、そのうち四〇〇、〇〇〇円を原告とその妻静子および原告の母与志の有する株式で占めていた。

したがつて、同商店は法人税法第七条の二第一項第二号所定の同族会社に該当し、原告はその判定の基礎となつた株主に該当する。

(四)  横溝商店の目的とする営業は、荒物・雑貨・家庭用品の卸売小売業であるところ、その事業を遂行するためには商品格納用の倉庫の確保が必要不可欠であつた。そこで、同商店は、別紙第四目録記載の倉庫七ヶ所(延面積約四五〇平方米)を他から借りて使用していた。

そして、原告は、その所有にかゝる本件土地と倉庫および倉敷市戒町五〇八番地所在の本店内の倉庫の一部六五平方米を、同商店にその設立された昭和二六年三月以降貸与しており、なかでも、本件倉庫は、同商店の営業店舗(後年は、本店よりも倉敷市元町四九五番地所在の店舗の方に、営業店舗の重点が移つていた。)からも遠くないという立地条件の良さと収容力が大きいことから、同市元町五一二番地所在の倉庫とともに枢要な役割を担い、この両者で全保管商品の約半分を格納し、そしてそのうち四分の三は本件倉庫に格納していた。

そのため、横溝商店は、原告から借りている本件倉庫がないとすれば、少くともこれに代るべき倉庫を他から調達するか、あるいはこれまでよりも相当程度に営業規模を縮少しなければ、事業の遂行はできない状況にあつた。(なお、同商店の営業収益上新規にこれに代るべき倉庫を他から調達することは不可能であつたとの事実は、後に認定するごとく、右両倉庫の使用対価が著しく安かつたにしても、このことのみによつては右事実は認めることはできない。)

(五)  ところで、原告は本件倉庫を貸与するにあたり、同商店設立の時以降昭和三四年三月三一日までは無償とし、同年四月一日以降同商店解散の頃までは月額一、〇〇〇円の割合の賃料を徴収していた。しかし、当時岡山県下における倉庫賃貸料の適正価額は、三・三平方米当り月額三五〇円を下らなかつたから、本件倉庫の適正賃料は、月額一二、〇〇〇円を下らなかつた。そうすると、横溝商店においては、本件倉庫を適正額の対価を支払わずに使用して来たのであるから、その本来支払うべき適正額から現実に使用対価として出捐した額との差額につきその出捐を免れ、よつてそれに相当する利益を得たことになる。そして、この利益は本件土地、倉庫に関して、横溝商店において生じた所得となる。

(六)  昭和三五年当時の本件土地および本件倉庫の固定資産評価額は、五三、九六六円と二〇一、〇〇〇円であつて、この両不動産の価額だけでも横溝商店の前記滞納税額をはるかに超えている。

以上の事実によれば、横溝商店には、法人県民税(法人税割)の昭和三一年度分四三、九一〇円昭和三三年度分二九、四六〇円の納付義務があり、しかも、同商店のこの納税義務につき、原告が地方税法第一一条の六所定の第二次納税義務者にあたることは、明らかである。

三、結論。

そうすると、結局、被告の原告に対する本件納付告知処分のうち、横溝商店の法人県民税の滞納額に関する部分については適法であるが、同商店の法人事業税に関する部分については、違法としてこれを取消すべきことになる。したがつて、本件納付告知処分全部の取消しを求める本訴請求は、右取消すべき部分においてのみ正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却することゝし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条・第九二条本文を各適用して主文のとおり判決する。

別紙

(第一目録)

一、昭和三一年度

(一)法人事業税

<省略>

(二)法人県民税(法人税割)

<省略>

二、昭和三三年度

(一)法人事業税

<省略>

(二)法人県民税(法人税割)

<省略>

別紙

(第二目録)

<省略>

別紙

(第三目録)

倉敷市戒町字浜ノ道五一〇番の八

一、宅地    一七坪五合

同所同番

家屋番号同町一〇三番の二

一、木造瓦葺二階建倉庫一棟

建坪 一七坪一合五勺 二階 一七坪一合五勺

別紙

(第四目録)

<省略>

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